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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)182号 判決

大阪府大阪市天王寺区小橋町一番二五号

原告

大阪シーリング印刷株式会社

同代表者代表取締役

松口豊

同訴訟代理人弁理士

岡田全啓

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官

植松敏

同指定代理人通商産業技官

前田正夫

長野正紀

松木禎夫

同通商産業事務官

高野清

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者が求める裁判

一  原告

「特許庁が昭和六三年審判第一七九五四号事件について平成二年五月一七日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二  原告の請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五七年一〇月三〇日、名称を「粘着ラベルの貼付装置」とする発明(以下、「本願発明」という。)について特許出願(昭和五七年特許願第一九一六一八号)したが、昭和六三年九月一四日拒絶査定がなされたので、同年一〇月一三日査定不服の審判を請求し、昭和六三年審判第一七九五四号事件として審理された結果、平成二年五月一七日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年八月二日原告に送達された。

二  本願発明の要旨(別紙図面A参照)

その長手方向に複数のラベルが一定間隔を隔てて仮着されている帯状の剥離台紙、

前記剥離台紙をその長手方向に移送するための移送手段、

前記剥離台紙の移送経路上に設けられ前記剥離台紙から前記ラベルを剥離して被貼着体にそのラベルを貼着するためのラベル貼着ステーション、

前記剥離台紙の移送経路上であつて、かつ、前記ラベル貼着ステーションの上流側に固定的に設けられ、前記剥離台紙上の前記ラベルの端縁を検知するためのラベル検知手段、

前記ラベル貼着ステーションにあるラベルが存在する状態において、前記ラベル検知手段とそれに最も近いラベルの端縁との間の距離Dに関連するデータを設定するための第一設定手段、

前記ラベル検知手段の出力に応答して前記移送手段による前記剥離台紙の移送量dを検知するための移送量検知手段、

前記第一設定手段によつて設定した前記距離Dと前記移送量dとが等しくなつたことに応答して、前記移送手段に対して前記剥離台紙の移送を停止させるための停止指令を与えるための停止指令手段、及び、

前記ラベル貼着ステーションに前記被貼着体が到来したことに応答して、前記移送手段に対して前記剥離台紙の移送を開始させるための開始指令を与えるための開始指令手段

を含む、粘着ラベルの貼付装置

三  審決の理由の要点

1  本願発明の要旨は、前項(特許請求の範囲第1項)記載のとおりである。

2  これに対し、昭和五四年特許出願公告第五九五九号公報(以下、「引用例1」という。別紙図面B参照)には、被貼付物2に貼るラベル4がテープ状のセパレータ4a上に一定間隔で剥離可能に並列貼付されており、搬送装置1によつて搬送される被貼付物2を検知器3が検知すると、セパレータ4aに一定方向の送りが与えられ、セパレータ4aが送り途中でガイド板12により反転屈折する際、ラベル4はセパレータ4aから自然に剥離して被貼付物2に貼着し、次に、ガイド板12よりセパレータ4aの供給側に位置する検出器13が後方のラベル4を検知すると(この時、ガイド板12上には、第1図のように、他のラベル4が存在している。)、セパレータ4aの進行が停止するラベルの貼着装置が記載されている。

3  また、昭和五七年一月六日に特許出願公開された昭和五七年特許出願公開第一〇四五号公報(以下、「引用例2」という。別紙図面C参照)には、ラベル2が長尺状の台紙に等ビッチで貼着されており、この台紙1はプリンタ4、剥離部となる剥離板5、モータ6で駆動され送り部となる送りローラ7を経て台紙巻取部8に達しており、前記剥離板5の前部にラベルの前綠が到達したことを検出するラベル検出器22が設けられ、このラベル検出器22がラベル2の前縁を検出してから台紙を一定量送るように制御する定量送り手段が設けられ、ラベルはラベル2の前縁21をラベル検出器22が検出してから寸法Sだけ送られた後停止し、この停止時には後続のラベルはデータ印字部60の下方に存在するように制御されており(第13図)、また、定量送り手段の送り量が設定変更自在であるため、ラベルの大きさが変わつてもラベル検出器の位置を変える必要がないラベル送り制御装置が記載されている。

4  本願発明と引用例1記載の発明を対比すると、本願発明の「剥離台紙、ラベル貼着ステーション」は、それぞれ、引用例1記載の「セパレータ4a、ガイド板12が設置されている場所」に相当する。したがつて、両発明は、

「その長手方向に複数のラベルが一定間隔を隔てて仮着されている帯状の剥離台紙、前記剥離台紙をその長手方向に移送するための移送手段、前記剥離台紙の移送経路上に設けられ前記剥離台紙から前記ラベルを剥離して被貼着体にそのラベルを貼着するためのラベル貼着ステーション、前記剥離台紙の移送経路中であつて、かつ、前記ラベル貼着ステーションの上流側に設けられたラベル検知手段、前記ラベル検知手段の出力に応答して前記移送手段に対し前記剥離台紙の移送を停止させるための停止指令を与えるための停止指令手段、及び、前記ラベル貼着ステーションに前記被貼着体が到来したことに応答して前記移送手段に対し前記剥離台紙の移送を開始させるための開始指令を与えるための開始指令手段を含む、粘着ラベルの貼付装置」

である点において、一致する。

しかしながら、本願発明と引用例1記載の発明は、左記の二点において相違する。

〈1〉 本願発明のラベル検知手段が固定的に設けられているのに対し、引用例1にはそれに関する記載が存しない点

〈2〉 ラベル貼着ステーションにラベルが存在する状態で剥離台紙の移送を停止するための停止指令を出す要件

本願発明が、ラベル貼着ステーションにあるラベルが存在する状態(停止状態)において、ラベル検知手段とそれに最も近いラベルの端縁との間の距離Dに関連するデータを設定するための第一設定手段、及び、前記ラベル検知手段の出力に応答して移送手段による剥離台紙の移送量dを検知するための移送量検知手段を設け、前記第一設定手段によつて設定した前記距離Dと前記移送量dが等しくなることを条件としているのに対し、引用例1記載の発明は、単に、後方のラベルを検知することを条件としている点

5  各相違点について検討する。

まず、相違点〈2〉について考えるに、引用例2記載の発明は、ラベルの前縁の到達したことを検出するラベル検出器が設けられ、このラベル検出器22によりラベル2の前縁を検出してから台紙を一定量送るように制御する定量送り手段が設けられ、定量送り手段の送り量の設定変更自在であるので、引用例2には、本願発明の「停止状態において、ラベル検知手段とそれに最も近いラベルの端縁との間の距離Dに関連するデータを設定するための第一設定手段、及び、前記ラベル検知手段の出力に応答して前記移送手段による前記剥離台紙の移送量dを検知するための移送量検知手段を設け、前記第一設定手段によつて設定した前記距離Dと前記移送量dとが等しくなることを条件に、剥離台紙の移送を停止するための停止指令を出す、停止指令手段」に相当するものが記載されていると認められる。

もつとも、複数のラベルが仮着されている帯状の剥離台紙が停止した時点で、引用例2記載の発明がデータ印字部60の下方にラベルが存在するように制御されているのに対し、本願発明あるいは引用例1記載の発明は、ラベル貼着ステーションにラベルが存在するように制御されている点において異なる。しかしながら、両者は、剥離台紙を所定位置において停止させる点では何ら相違がなく、引用例2記載の停止指令手段を引用例1記載の発明の停止指令手段として採用することは当業者が適宜なし得たことと認められる。

また、剥離台紙には複数のラベルが一定間隔を隔てて仮着され、それぞれのラベルは同一方向に同一距離、同時に移動するのであるから、ラベル検出装置の設置箇所は適宜に定めればよい。したがつて、引用例1記載の発明に引用例2記載の停止指令手段を採用するに際し、ラベル検出装置を引用例1記載の発明と同様にラベル貼着ステーションの上流側に設けることには、何らの困難も認められない。

そして、引用例2記載の停止指令手段を採用すれば、引用例2にも記載されているようにラベル検出器の位置を変える必要がないから、相違点〈1〉に係る本願発明の構成(すなわち、ラベル検知手段を固設する構成)は、当業者ならば容易に想到し得た事項である。

6  そして、本願発明が要旨とする構成によつてもたらされる効果は、引用例1及び引用例2記載の発明から当業者が予測し得た程度のものであつて、格別のものといえない。

7  以上のとおり、本願発明は、引用例1及び引用例2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認められるから、特許法第二九条第二項の規定により、特許を受けることができない。

四  審決の取消事由

本順発明が引用例1記載の発明と審決認定の二点においてのみ相違しその余の点において一致すること、及び、引用例2に審決認定の技術的事項が記載されていることは認める。しかしながら、審決は、各相違点に関する判断に当たり、引用例2記載の技術的事項を引用例1記載の発明に採用することは当業者が適宜なし得たと誤つて判断した結果、本願発明の進歩性を誤つて否定したものであつて、違法であるから、取り消されるべきである。すなわち、

引用例1記載の発明がラベルを被貼着体に貼着するための装置に関するものであるのに対し、引用例2記載の発明はラベルを移送しつつ所定の印刷を形成するための制御装置に関するものであつて、ラベルの前縁を剥離することはできるが、これを自動的に被貼着体に貼着することはできない。このように、両発明は、対象とする装置を異にする結果、解決すべき技術的課題(目的)、構成を異にするものであるから、引用例2記載の「ラベルの前縁の到達したことを検出するラベル検出器が設けられ、このラベル検出器22によりラベル2の前縁を検出してから台紙を一定量送るように制御する定量送り手段が設けられ、定量送り手段の送り量の設定変更自在である」構成(以下「ラベル送り制御手段」という。)を引用例1記載の発明に適用することに想到するのは困難である。

また、引用例2記載の発明のラベル検出器は、剥離されたラベルの前縁を検出するように、剥離されたラベルの前縁の両側に配設されている。したがつて、仮に引用例2記載のラベル送り制御手段を引用例1記載の発明に適用すると、ラベル検出器は剥離されたラベルの前縁の両側に配設されることになり、ラベルを被貼着体に貼着する工程の支障になる。これに対し、本願発明ではラベル検知手段がラベル貼着ステーションの上流側に配設されるので、貼着工程の支障にならない。このように、本願発明と、引用例2記載のラベル送り制御手段を引用例1記載の発明に適用したものは、その構成を異にし、奏する作用効果を異にするから、本願発明は引用例1及び引用例2記載の発明に基づいて容易に発明をすることができない。

第三  請求の原因の認否、及び、被告の主張

一  請求の原因一ないし三は、認める。

二  同四は争う。審決の認定及び判断は正当であつて、審決には原告が主張するような誤りはない。

原告は、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明は対象とする装置を異にする結果、技術的課題、(目的)、構成を異にするから、引用例2記載のラベル送り制御手段を引用例1記載の発明に適用することに想到するのは困難であつた、と主張する。

しかしながら、引用例1記載の発明は、ラベルを自動的に貼着する装置(すなわち、剥離台紙を移送して所定位置で停止させ、剥離台紙から剥離したラベルを被貼着体に貼着する装置)に関するものであるが、引用例1の第二欄第三六行ないし第三欄末行には、検出器13が後方のラベル4を検知したときにセパレータが停止することが記載されている。そうすると、引用例1には、検知手段が被貼着体を検知すると剥離台紙の移送が開始してラベルが被貼着体に貼付され、その後に剥離台紙が所定位置に停止するとの工程が繰り返されることが、実質的に記載されているといえる。そして、引用例1の第四欄初行ないし第八行には、被貼付物が不規則な間隔で送られても確実なラベル貼着が可能であることが記載されているが、引用例1記載の発明では被貼着体の搬送速度と剥離台紙の移送速度が同調しているのであるから、ラベル貼着が確実に行われるためには、剥離台紙が停止状態において正確に所定位置に存在していることが必要である。したがつて、引用例1記載の発明が、移送中の剥離台紙を所定位置に正確に停止させることを重要な技術的課題(目的)とすることは明らかである。

一方、引用例2記載の発明は、ラベルを手動で貼着する装置(すなわち、台紙を移送して所定位置で停止させ、台紙から剥離したラベルを手で被貼着体に貼着する装置)に関するものであるが、引用例2の第二頁右下欄第七行ないし第一〇行、及び、第八頁左上欄第一二行ないし右上欄初行には、引用例2記載の発明がラベル(換言すれば、ラベルが仮着された剥離台紙)を所定位置に正確に停止させることを技術的課題(目的)とすることが記載されている。

以上のとおり、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明は、ラベルを自動的に貼着するか手動で貼着するかの差はあるものの、剥離台紙をいかにして所定位置に正確に停止させるかという技術的課題(目的)において共通している。そして、引用例2記載の発明は、右技術的課題(目的)の解決に当たつて、ラベルの大きさが変わつても検出器の位置を変える必要がないラベル送り制御手段を創案したものである。したがつて、引用例1記載の発明の技術的課題(目的)の解決に当たつて、引用例2記載のラベル送り制御手段を採用し、ラベルの大きさが変わつても検出器の位置を変える必要がない構成とすることは、当業者ならば適宜になし得た事項であるから、引用例2記載の技術的事項を引用例1記載の発明に適用することに想到するのは困難であつたという原告の主張は失当である。

この点について、原告は、引用例2記載のラベル送り制御手段を引用例1記載の発明に適用するとラベル検出器が剥離されたラベルの前縁の両側に配設されることになり、ラベルを被貼着体に貼着する工程の支障になる、と主張する。しかしながら、引用例2記載のラベル送り制御手段を引用例1記載の発明に適用したものはラベルを自動的に貼着できるから、手動で被貼着体に貼着する工程は不要である。のみならず、剥離台紙には複数のラベルが一定間隔で仮着されており、各ラベルは同一方向に同一距離、同時に移動するから、ラベル検出器をどこに配設しても検出結果に差がない。したがつて、ラベル検出器の配設位置は適宜に決定し得る事項であつて、引用例2記載のラベル送り制御手段を引用例1記載の発明に適用するに当たり、ラベル検出器の配設位置を引用例1記載のラベル検出器と同様にラベル貼着部より上流とすることには何らの困難もないというべきである。

第四  証拠関係

証拠関係は本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、同目録をここに引用する。

理由

第一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第二  そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。

一  成立に争いない甲第二号証の特許願書添付の図面(第1図、第2図、第5図ないし第8図)及び甲第三号証の手続補正書添付の明細書及び図面(第3図、第4図)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が左記のように記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。

1  技術的課題(目的)

本願発明は、ラベル貼着ステーションに到来したラベルを一時停止することができる、粘着ラベルの貼付装置に関する(明細書第四頁第一七行ないし末行)。

この種の装置ではラベル検知器によりラベルの位置が検知されてラベルがラベル貼着ステーションに一時停止するが、從来技術では、ラベルの大きさあるいはラベル間のピツチが変わつて、例えば第8図bに示す関係になつたときは、ラベル検知器を適宜の位置に移動して第8図aに示す関係になるようにする必要があるが、右移動操作は煩雑であるばかりでなく正確を期し難い問題点があつた(第五頁第二行ないし末行)。

本願発明の技術的課題(目的)は、ラベルの大きさあるいはラベル間のピッチが変わつても、簡単な操作によつてラベルの正確な位置を判断することができる粘着ラベルの貼付装置を創案することである(第六頁初行ないし第五行)。

2  構成

本願発明は、右技術的課題(目的)を解決するために、その要旨とする特許請求の範囲第1項記載の構成を採用したものである(第一頁第五行ないし第二頁第一二行)。

別紙図面Aはその一実施例を示すものであつて、第1図はラベル検知器及びその周辺装置の正面図、第2図は入力部の正面図、第3図はタイミングチヤート、第4図はフロチヤート、第5図はプロツク図、第6図は装置全体の正面図、第7図はラベル連続体の一部を切り欠いた斜視図である。なお、1はラベル、2は剥離台紙、3はラベル連続体、4は検知器、5は剥離器、6は入力部、11は制御部、18は被貼着物、19はラベル送り装置である(第一五頁第一四行ないし第一六頁第八行)。

図において、A、H及びLは、入力部に数値的に入力される設定値である。すなわち、Aは、B(第6図に示すように、被貼着体18の搬送方向先端から、粘着ラベル1が貼着される先端までの距離)とC(粘着ラベル1の先端が被貼着物18に触れる部分aから、検知手段16までの距離)の和である。Hは、設定距離(粘着ラベル1の先端が被貼着物18に触れる部分aから検知器4までの、ラベル連続体3と平行する距離)である。Lは、ラベルの一ピッチ距離(粘着ラベル1の長さと、隣接する粘着ラベル1どうしの間の和)である。そして、Dは位相距離(粘着ラベル1の先端から検知器4までの距離)であつて、次式

D=H-αL、D≦L、ただしαは整数

で計算される。前記実施例では、入力部のテンキー7、正負キー8及び選択キー9によつてA、H及びLの数値を入力すると、制御部11が前記式により距離Dを求めるとともに、A、H、L及びDの値を記憶する(第一一頁第三行ないし第一二頁第七行)。

検知器4は、粘着ラベル1の有無を検知し、検知信号を制御部11に与える(第一二頁第八行ないし第一二行)。

制御部11は、検知器4の検知信号な変換したパルス数が距離Dに対応しているか否かを比較し、両者が一致したとき、ラベル送り装置19に対し移送停止指令を与える。これによつて、ラベル送り装置19のラベル送りが一時停止され、次に供給されるラベルはラベル貼着ステーションに一時停止される(第一二頁第一三行ないし第一三頁第一八行)。

次に、検知手段16が被貼着物18を検知した時点から被貼着物18が距離Aだけ搬送されたとき(すなわち、被貼着物18がラベル貼着ステーションに搬送されたとき)、制御部11はラベル送り装置19に対し移送開始指令を与える。これによつて、ラベル送り装置19のラベル送りが再び開始され、ラベル1は被貼着物18に貼付され、以降、検知器4による粘着ラベル1検知以下の動作が繰り返される(第一三頁第一九行ないし第一四頁第九行)。

3  作用効果

本願発明によれば、ラベル貼着ステーションに一つのラベルが存在する状態で、ラベル検知器とそれに最も近いラベルの端縁との間の距離Dに関連するデータを設定することによつて、ラベルをラベル貼着ステーションに位置させることができる。したがつて、ラベルの大きさあるいはラベル間のピッチが変わつても、従来のようにラベル検知器の位置を変える必要がなく、キーの操作によつて距離Dに関連するデータを変えるだけで、迅速かつ正確に粘着ラベルを貼着し得る粘着ラベルの貼付装置を得ることができる(第八頁第一五行ないし第九頁第四行、第一五頁第七行ないし第一二行)。

二  原告は、引用例2に審決認定の技術的事項が記載されていることを認めながら、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明は対象とする装置を異にする結果、解決すべき技術的課題(目的)構成を異にするものであるから、引用例2記載の技術的事項を引用例1記載の発明に採用することは当業者が適宜なし得たとする審決の判断は誤りであると主張する。

そこで、引用例1及び引用例2記載の技術内容を検討するに、まず成立に争いない甲第四号証(特許出願公告公報。別紙図面B参照)によれば、引用例1記載の発明は名称を「ラベル貼着装置」とするものであつて、コンベアのような搬送装置により搬送される包装用箱等の被貼着物にラベルを順次貼着する装置であつて、被貼着物に対するラベル貼着を確実に行うことができるものの創案を技術的課題(目的)とする(第一欄第三一行ないし第三六行)と認められる。そして、同号証によれば、引用例1には同発明の一実施例の構成及びその作用として、検出器3が搬送装置1により搬送される被貼着物2を検知すると、セパレータ4a(ラベル4が一定間隔で剥離可能に並列貼付されている、テープ状のもの。第二欄第七行ないし第九行)が矢印B方向に移送されること、セパレータ4aがガイド板12によつて反転屈折するときラベル4が自然に剥離して被貼着物2の表面に貼着すること、ガイド板12よりセパレータ4aの供給側(上流側)に位置するラベル検出器13が後方のラベル4を検知すると、セパレータ4aの移送が停止すること、そして検出器3が次の被貼着物2を検知すると、セパレータ4aが再び移送して、前記の工程が繰り返されることが記載されていると認められる(第二欄第三六行ないし第三欄末行)。

そうすると、引用例1記載の発明においては、まずセパレータ4aを所定の位置に停止させておき、被貼着物2の搬送に同調させてセパレータ4aを移送することによつて、セパレータ4aに仮着されているラベル4を被貼着物2に貼付することを企図するものであるから、セパレータ4aを所定の位置に正確に停止させることが発明の技術的課題(目的)を解決するための前提となることは明らかである。そして、セパレータ4aを所定の位置に正確に停止させることができれば、「コンベアとセパレータの送り速度が同調している限り、被貼付物が不規則間隔で送られても確実にラベル貼着が可能となる」(前掲甲第四号証の第四欄第五行ないし第八行)との作用効果が奏されるものと認められる。

一方、成立に争いない甲第五号証(特許出願公開公報。別紙図面C参照)によれば、引用例2記載の発明は台紙に貼着されたラベルにデータを印字して発行するラベル発行機のラベル送り制御装置に関するもの(第二頁左上欄第五行ないし第七行)であつて、ラベル発行機ではラベル有無検出器がラベルが存在しないことを検出すると台紙が移送され、ラベル有無検出器がラベルが存在することを検出すると台紙移送が停止されるが(第二欄右上欄第八行ないし左下欄第二行)、従来のラベル送り制御装置は台紙のみの光透過量と台紙及びラベルが重なつたときの光透過量の差を検出して制御するものであるため、ラベルが光透過率の高いものであると非常に高精度の検出器が必要となり、また、ラベルの大きさが変わると検出器の位置を変えねばならないが最適位置を定めるのは手数を要するなどの問題点がある(第二頁左下欄第三行ないし右下欄第六行)との知見に基づいて、「ラベル検出を確実に行なつてその停止位置を正確に定め、その停止位置の変更も簡単であるラベル送り制御装置を得ること」(第二頁右下欄第七行ないし第九行)を技術的課題(目的)とするものと認められる。そして、前記甲第五号証によれば、引用例2記載の発明は、右技術的課題(目的)を解決するために、「ラベルが貼着された台紙を送る送り部を駆動する駆動部と前記ラベルを剥離する剥離部とを設け、この剥離部に臨ませて剥離された前記ラベルの前縁を検出するラベル検出器を設け、このラベル検出器による前縁検出が行なわれてから前記台紙を一定量送るように前記駆動部の動作を制御する定量送り手段を設けたことを特徴とするラベル送り制御装置」(第一頁左下欄第四行ないし第一一行)を要旨とする構成を採用したものであつて、第二頁右下欄第一一行ないし第六頁左上欄第二行に記載されているその一実施例の構成の核心は、「剥離板5の前部にラベル2の前縁21の到達したことを検出する前縁検出機能と前記ラベル2の有無を検出する有無検出機能とを有するラベル検出器22を設け」(第二頁右下欄第一四行ないし第一八行)、「紙送りコントローラ29には(中略)送り量設定部となる送り量設定器30が接続され」(第三頁左上欄第七行ないし第九行)、「台紙1が定速送りされるとラベル2は剥離されて剥離板5より突出し、ついにはラベル2の前縁21はラベル検出器22により検出される。この検出と同時に(中略)紙送りコントローラ29内ではスリツト検出器27からの信号Cをカウントし始め、そのカウント数が送り量設定器30であらかじめ設定された数になると(中略)モータ6を停止させる。したがつて、ラベル2はその前縁21がラベル検出器22で検出されてから一定量送り出されて停止することになる。そのため、基準信号は前縁21の検出であり、ラベル2が透明でない限り透過率の差は大きく(中略)きわめて正確な検出がなされる」(第三頁右上欄第三行ないし第一八行)点であると認められる。そして、前掲甲第五号証によれば、引用例2記載の発明は「ラベル検出器はラベルの前縁を検出するようにしたので、台紙やラベルの光透過率に関係なく確実にラベル前縁の検出を行うことができ、この前縁の検出に基づいて定量送り手段により定量送りを行なわせるようにしたので、ラベルの送り量制御が正確であり、しかもその送り量は設定変更自在であるため、ラベルの大きさが変つてもラベル検出器の位置等を変える必要がなく、初期設定も容易である」(第八頁左上欄第一二行ないし末行)との作用効果を奏するものと認められる。

そうすると、引用例2記載の発明は、ラベル発行機のラベル送り制御装置に関するものであるが、ラベルに対するデータ印字を正確に行うために、ラベルが仮着されている台紙を所定の位置に正確に停止させることが発明の技術的課題(目的)となつていることが明らかである。

このように、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明は、ラベルが仮着されている台紙(セパレータ)を所定の位置に正確に停止させる点において、同一の事項を技術的課題(目的)とする技術的思想ということができる。そして、引用例2記載の発明は、右技術的課題(目的)を解決するために、審決第七頁第七行ないし第一二行説示の「ラベルの前縁の到達したことを検出するラベル検出装置が設けられ、このラベル検出器22によりラベルの前縁を検出してから台紙を一定量送るように制御する定量送り手段が設けられ、定量送り手段の送り量の設定変更自在である」ようなラベル送り制御手段を創案したものである。したがつて、引用例1記載の発明において、前記技術的課題(目的)を解決するに当たり、引用例2記載の右ラベル送り制御手段を適用することによつてラベルの大きさが変わつてもラベル検出器の位置を変える必要がないようなラベル貼着装置の構成を得ることは、当業者ならば容易に想到し得た事項というべきである。引用例2記載の前記実施例が前縁が剥離したラベルを手で被貼着体に貼着するものであつて自動的に貼着するものでないことは、右適用を考慮する際の障害になるとは考えられない。

この点について、原告は、引用例2記載のラベル送り制御手段を引用例1記載の発明に適用するとラベル検出器は剥離されたラベルの前縁の両側に配設されることになりラベルを被貼着物に貼付する工程の支障になる、と主張する。しかしながら、剥離台紙には一定の間隔でラベルが仮着されており、移動する剥離台紙のどの位置にラベル検出器を配設しても同一の検出結果が得られることは技術的に自明であるから、ラベル検出器の配設位置は適宜に決定し得る事項である。そして、引用例2記載のラベル送り制御手段を引用例1記載の発明に適用するに当たり、ラベル検出器の配設位置を引用例1記載のラベル検出器と同様にラベル貼着部より上流にすることに何らかの困難があつたとは到底考えられないから、原告の右主張は失当である。念のため付言すれば、引用例2記載のラベル検出器は前記のとおり剥離されたラベルの前縁を検出するものであるが、ラベル検出器をラベル貼着部より上流側に配設すると、ラベル検出器は剥離台紙に仮着されたままのラベルの前縁を検出しなければならないことになる。しかしながら、引用例1記載の「光電管のような(中略)検出器13」(前掲甲第四号証の第三欄第一六行)あるいは本願発明の「たとえば光電管、光電素子などが用いられる」ラベル検知器4(前掲甲第三号証の第一〇頁第七行ないし第九行)は、各発明の構成からみて、剥離台紙に仮着されたままのラベルの端縁(前縁)を何ら問題なく検知し得る機能を有していることが明らかであるから、右の点も、ラベル検出器をラベル貼着部より上流に配設することの支障になることはない。

三  以上のとおりであるから、引用例2記載のラベル送り制御手段を引用例1記載の発明に適用することは当業者が適宜なし得た事項というべきである。そして、引用例2記載のラベル送り制御手段を採用するならばたとえラベルの大きさが変わつてもラベル検出器の位置を変える必要がないのであるから、引用例1記載の発明のラベル検出器も固定的に設けて差支えないことは、当業者が容易に想到し得る事項にすぎない。

したがつて、本願発明は引用例1及び引用例2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする審決の認定判断は正当であつて、審決には原告が主張するような違法はない。

第三  よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 佐藤修市)

別紙図面A

〈省略〉

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別紙図面B

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別紙図面C

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別紙図面

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